ジャズだとドラムは18インチのバスドラムが良く使われます。それが王道だし、大多数の人はジャズの演奏には18インチが良いと思っています。ビンテージのグレッチのドラムセットなんかだと18インチのバスドラムが付いたセットが誰でも喉から手が出るほど欲しいんですが、状態の良いやつだとアメリカでも$12,000ぐらい(2016年当時、120万円ぐらい)します。日本だと200万円ぐらいしますね。
さて、「ジャズには18インチのバスドラムを使う」ならいいんですが、「ジャズは18インチのバスドラムを使う」と言うと間違いになります。
ジャズの歴史が100年ぐらいあるとして、18インチのバスドラムが使われ始めたのは60年代ぐらいからです。これが間違いの理由の1つ目です。たぶん、こういったドラム談義をしていて「ジャズ」というと50年代、60年代の話をしていることが90%を占めると思いますが。ちなみにジャズが商業的に最も成功していたのは1930年代でビッグバンドに合わせてアメリカ人が踊っていた時代です。
2つ目の理由は50年代、60年代でも18インチを使ってる人が大多数、というわけではなさそうだからです。18インチのバスドラムの音のイメージがある人はその音を思い浮かべてから、Philly Joe Jonesがドラムを叩いているMiles Davisの録音を聞いてみてください。18インチの音はしていないと思います。Philly Joeが広告に使われているグレッチのチラシを見るとバスドラムは22インチや20インチです。Philly Joeが18インチをMileの50年代クインテットで使ってない時点で他の例を挙げなくてもいいんじゃないかなと思うんですが、彼の次のJimmy Cobbも20インチです。Tony Williamsは18インチですね。個人的にはTonyのバスドラの音がまさしく18インチの音だと思います。[2024/04/30 追記: 最初期の頃は20”だと思います。]
2つ目の理由を続けます。じゃあJohn Coltraneのカルテットのドラマー、Elvin Jonesはどうなんだというと、ひとまず1961年の録音である"Live at The Village Vanguard"を聞いてみてください。結構パンチの効いた音がしてるので僕は18インチではないと思います。グレッチの1963年のカタログでは20インチのバスドラム(Black Pearl)、1966年のカタログでは18インチのバスドラム(White Satin Flame)ということになっています。18インチのバスドラムを使い出したのはElvinだという説を聞いたことがあります。Tony Williams説も聞いたことがありますが、それらを検証しているわけではないのでひとまず置いておきます。持ち運びするのがでっかい太鼓より小さい方が楽じゃないか、というのが理由だそうです。それが本当だとすると音が良いからというわけじゃないですね。とは言え、僕はもちろん音も理由のうちだと思います。
で、ここで問題なのが「じゃあ65年まではElvinは20インチだったのか(66年に18インチのバスドラムのセットと広告に載るまで)」というと全くそうじゃないからです。個人的に研究中で、定かではないのですが63年はおろか62年ぐらいでも18インチを使ってる気がします。あと、さらにElvinは16インチのバスドラム(Starlight Sparkle)も使っています、しかも65年に。なのでJohn Coltraneのカルテットに参加中のElvinでもいろいろ探りながらやっていたのかな、という気がします。
60年代の他のドラマーでも結構20インチっぽいバスドラムの音はよく聞かれます。バップが終わって、ポストバップの時代になっても「18インチじゃなきゃダメ」なんて概念はまだないんじゃないかなと思います。いつ誰が決めたんでしょうね。
2つ目の理由が骨太になってしまいましたが3つ目を挙げると、現代のジャズドラマーでも18インチを使ってる人が多数とはいえ、それが唯一の答えではないからです。
次回はElvinの使用していたバスドラムのサイズについて個人的な見解の話をしようかなと思います。